日本の菓子・パン・茶ブランドが米国進出を考えるとき、同じ東アジア発のベーカリーカフェがどう規模を作っているかは有用な比較材料になる。Nation’s Restaurant Newsは2026年9月4日、韓国で1,750店超を持つTwosome PlaceがVirginia州Alexandriaに米国1号店を開く予定だと報じた。同記事は、既に米国で成長する韓国発のParis BaguetteとTous les Joursの店舗数・売上も紹介している。ここから、店舗でどのような顧客体験を提供すべきか、また商品供給はどのようにすべきか、日常利用をしてもらう為に何をすべきかなど、重要なポイントがいくつも読み取れる。
目次
- 数字が示すのは「アジア人気」以上のもの
- 比較から学び、同一視しない
- 店舗を広告ではなく需要検証場所にする
- 一つのヒーロー商品と二つの日常商品
- 終日メニューで固定費を分散する
- 輸入と現地製造の境界を商品別に決める
- 出店クラスターと卸売を連動させる
- フランチャイズ化の前に標準化するもの
- 店舗と商品流通を一つのパッケージにする
- ブランドの真正性を運用に落とす
- 出店地域の選定は顧客と物流で決める
1. 数字が示すのは「アジア人気」以上のもの
NRNによると、Paris Baguetteは2025年末に米国内269店、前年比36%超の店舗増となり、売上は約41%増の6億5100万ドルだったと報じた。また、Tous les Joursは190店、店舗数26%超増、売上約40%増の3億700万ドルとされた。更にTwosome Placeの初店舗はpremium cakes、specialty coffeeに加え、bulgogiと卵のK-Toast、panini、Bibimbowlsなど終日提供するメニューを予定しているという。重要なのは、母国の菓子だけを輸入しているのではなく、朝食、昼食、休憩、持ち帰り、祝いのケーキという複数の需要を一店舗で束ねていることだ。単に母国の文化や商品を持ち込んだということではなく、現地の習慣に合わせた様々なメニューやサービスを提供することで各社が数字を伸ばしているということに注目したい。日本企業も「日本文化に関心がある人」だけを顧客にせず、平日の朝、午後の休憩、手土産、誕生日、デリバリーという利用場面を設計することが成功への重要な要素となる。
2. 比較から学び、同一視しない
当然のことならが、韓国系チェーンの成長をそのまま日本の需要に置き換えることはできない。商品、移民人口、韓国ブランド育成への積極投資、フランチャイズ制度、製造拠点などなど異なる点が多いからだ。日本と韓国を比較する価値は、東アジアの味を米国の日常的なcafe formatに組み込めることや、店舗が消費者教育と卸需要を同時に生むこと、ケーキや飲料が高頻度と高単価を補完し得ることにある。例えば日本ブランドであれば、あんぱん、食パン、どら焼き、ロールケーキ、抹茶、ほうじ茶を一度に並べるのではなく、誰が何時に買うかを想定し、提供する商品を決め、利用シーンにあわせた顧客体験を提供をする。
3. 店舗を広告ではなく需要検証場所にする
旗艦店の役割は美しい内装で話題を作ることだけではない。商品別の販売時間、飲料との併買、持ち帰り比率、予約、廃棄、口コミを集め、米国向け商品仕様を学ぶ場所とすることである。たとえば抹茶ロールが午後に売れ、ほうじ茶ラテと組み合わされるなら、個包装ミニロールや冷凍シートケーキを設計できる。逆に店舗限定の繊細な商品を無理に全国配送すると品質を損なう。POS、会員、モバイル注文で利用場面を把握し、四半期ごとに「店内専用」「地域卸」「全国EC」を分類する。店舗数より、一店舗から得られる学習の質を初期KPIに置く。
4. 一つのヒーロー商品と二つの日常商品
米国進出時に必要なのは、写真で理解できるヒーロー商品、定期的に買ってもらえるような価格の日常商品や飲料、軽食などの高回転商品である。ヒーローとは写真を見ただけで欲しくなるような写真映えする魅力的な商品のこと。抹茶ミルクレープ、季節の和果実ケーキ、ふわふわ食パンなど。ヒーローをきっかけに来店理由を作る。日常商品はあんぱん、カレーパン、小型どら焼きなど。テイクアウト商品などを設計し利用シーンを広げる。高回転商品は抹茶、ほうじ茶、玄米茶ラテ、だしスープなど。時間帯に応じて食事ニーズや休憩ニーズを取り込んだ商品提供をする。この三層を混同すると、すべてが高価格で日常性を失うか、低価格品だけでブランドの差が弱くなるので、しっかりと三層それぞれの設計をするころが重要になってくる。また、サイズ、甘さ、温度、包材を米国の利用場面に合わせても、素材や技術の核は守るということも重要だ。
5. 終日メニューで固定費を分散する
Twosome Placeの予定メニューがtoast、panini、bowlsまで含んでいることから、ケーキとコーヒーだけに依存しない設計をしているということがわかる。日本ブランドでも、朝は食パンやサンドとコーヒー、昼はおにぎり・味噌スープ・惣菜パン、午後は甘味とラテ、夕方は持ち帰りセットという時間帯別の設計が考えられる。ただし品数を増やし過ぎると仕込み、教育、廃棄が悪化する。共通原料を使うことが重要だ。例えば抹茶を飲料、クリーム、焼菓子に、胡麻をパン、ドレッシング、デザートに使うなどし、SKU数より原料回転を高めていく。各時間帯でトップ3商品を決め、売れない時間帯は営業時間や仕込みを見直す。
6. 輸入と現地製造の境界を商品別に決める
茶、餡、発酵バター風味素材、柚子加工品、黒蜜、きなこなどは、日本由来というだけで差別化になる。一方、牛乳、卵、生クリーム、小麦、果物などは現地調達の方が鮮度と採算に合う場合が多い。完成ケーキ、冷凍生地、プレミックス、フィリングなどもどこまで輸入し、どこまで現地調達するかを検討する。評価軸は、品質の再現性、輸送耐性、賞味期限、関税や検査などのコスト、最低ロット、知的財産などである。レシピを現地工場へ渡す場合は、許容差、官能基準、監査、代替原料の承認手順を契約化する。輸入者は「日本製」の価値を残しつつ、重量物や短命品を現地化して供給の弾力性を作る。
7. 出店クラスターと卸売を連動させる
最初の店舗が単独で遠隔地にあると、物流、教育、マーケティングを共有できない。1つの都市圏で旗艦店、サテライト、卸先を組み合わせる。旗艦店は全商品と体験、サテライトは売れ筋と飲料、日系・アジア系・一般小売への卸は個包装や冷凍品を担う。半径内で配送頻度を保ち、地域の認知を積み上げてから次都市へ進む。卸先には商品だけでなく、陳列写真、解凍手順、試飲台本、季節カレンダーを提供する。店舗で生まれた評判を小売へ、スーパーでの発見を店舗体験へ循環させると、広告費の効率が上がる。
8. フランチャイズ化の前に標準化するもの
韓国系チェーンの規模を見るとフランチャイズを急ぎたくなるが、まず標準化すべきはブランドロゴより商品品質である。原料規格、焼成・抽出時間、温度、盛り付け、廃棄基準、アレルゲン管理、教育時間、主要機器、店舗当たり必要人員をしっかりマニュアル化する。抹茶ラテ一杯でも、粉量、水温、ふるい、撹拌、ミルク比率が違えば体験が崩れる。開業後90日間の支援、品質監査、販促負担、地域限定商品の承認も制度化する。米国の労務、表示、食品安全、フランチャイズ法は専門家の確認が必要であり、本稿は法的助言ではない。
9. 店舗と商品流通を一つのパッケージにする
NRNの韓国系ベーカリーカフェの数字は、東アジア発の商品が米国の日常利用へ入れる可能性を示す比較材料である。日本企業は成功をイメージするだけではなく、まずはヒーロー商品や終日利用品の選定、輸入と現地製造の切り分け、出店クラスター、卸仕様などなど画一化されたマニュアルを設計していこう。
日本の菓子、パン素材、抹茶、ほうじ茶、餡などを探索する際、約7,000SKUを扱うumamill株式会社は候補の幅を確認する入口になってくる。最初の一店は完成形ではなく、どの商品がどの時間帯とチャネルで再現可能に売れるかを学ぶ実験場としてぜひumamillに声をかけてみてほしい。
10. ブランドの真正性を運用に落とす
真正性というのは、内装に日本語を多く置くことではない。どの原料と工程を日本由来として守り、どこを米国の利用場面に合わせるかを一貫して説明できることだ。抹茶なら産地、グレード、保管、開封後の扱い、抽出を標準化し、スタッフが一文で違いを伝えられるようにする。餡なら豆、甘さ、粒度、炊き方を定義し、季節商品でも基準を崩さない。一方、サイズ、乳製品、果物、持ち帰り包材は現地の需要に合わせられる。SNSでは美しい写真だけでなく、職人、原料、毎朝の工程、廃棄削減など店舗運営の事実を見せるのが効果的かもしれない。文化を装飾とせず、品質基準と顧客体験に結びつければ、模倣商品との差が長く残る。ブランドガイドには禁止事項だけでなく、変更可能な範囲と承認手順も記載し、現地チームが速く判断できるようにする。
11. 出店地域の選定は顧客と物流で決める
最初の都市は、日系人口や観光客の多さだけで決めない。対象顧客の居住・通勤、家賃、人件費、競合カフェ、冷凍・冷蔵物流、卸先候補、空港からのアクセスを同じ表で比較する。ブランド認知が低い地域でも、大学、オフィス、住宅、アジア系小売が近接すれば複数の利用場面を作れる。開業前にポップアップ、卸テスト、デリバリー限定メニューで需要を測り、売れた商品と時間帯を物件条件へ反映する。地域の日本文化イベントだけに依存せず、平日の通常需要を確認する。出店はブランドの夢を表現する行為であると同時に、配送半径と人員配置を伴うオペレーション判断である。
実務チェックリスト
- 対象顧客と利用場面を一文で定義した
- 米国で味・食感・使い方を検証した
- 一食原価、物流、廃棄を含む採算を計算した
- 表示、アレルゲン、食品安全を専門家と確認した
- 小規模実証の継続・修正・撤退基準を決めた
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出典・参考資料
South Korea bakery-cafe chain Twosome Place to make U.S. debut — Nation's Restaurant News, 2026-09-04.
https://www.nrn.com/emerging-chains/south-korea-bakery-caf-chain-twosome-place-to-make-u-s-debut
注:期間外の公的資料は規制・実務の補足文脈であり、テーマ選定の主要根拠ではありません。市場数値は各記事が引用した調査に基づき、日本食品個別の売上予測ではありません。
